健康な住宅を考える
私たちの事務所では、住宅の室内の健康に有害な物は使用ないように設計しています。
以下にその主な物を記入しました。
◇室内化学物質汚染を考える。
シックハウス症候群という言葉は、住宅に起因する健康被害全般を含んでいますが、その範囲は広大で、ダニに起因するものや低濃度中毒のほか、元々疾患を持っていた人が化学物質が原因で悪化するものや、元来匂いなどに敏感な人が何かをきっかけに敏感性が拡大してしまう化学物質過敏症等があります。
ですから、ここで問題とする化学物質汚染は、シックハウス症候群の中の原因の一つとお考えください。
最初になぜ化学物質が危険なのかですが、室内化学物質汚染において問題となっている「有機化合物」は、体内に入ったときに体内にある物質と反応を起こしてさまざまな障害を起こすということです。症状はさまざまですが、はきけやめまい、頭痛、湿疹などがあります。
その「有機化合物」は人工的に作られたもののみではなく、自然界にもあるものですからどのようなものにも含まれている可能性があります。ただ自然の材料には少ないようですが。
そこで室内化学物質汚染において問題となるのが、それらの化学物質がどのくらい室内の空気中に含まれているかということと、その毒性です。しかしその毒性を評価する事はその種類が多い事、毒性があるかどうか不明なものが多いこと、特にアレルギーなどに関する毒性評価はあまり行われていないなどから大変困難です。ですからここでは、評価は別にして(つまりほおっておくという事ではなく適切な研究機関の研究を待ちたいという事ですが。)、基本的な建築家としての対処法を考えようと思います。
◇建材や住宅と化学物質との関係
室内で検出された化学物質はその種類や濃度の情報が現在は不足しています。しかし、基本的にいろいろな状況や研究から分かっている事はあります。
- 建材から放散される化学物質のほとんどは時間とともに減少していく。
つまり古くなった家の方が汚染については安全だという事です。(建築家としては自ら首を絞めるような発言ですが。)
- 建材から放散される化学物質の量は温度が高くなるほど多くなる。
冬の家の中で寒さに震えていろという事はできませんので、対処法を考えなくてはなりません。
- 換気量が多くなるほど化学物質の濃度は減少する。換気は大切なものですがこの換気量というものが汚染に対してどのくらいが適切かという事も適切な評価がありません。
- 内装に近い建材ほど室内濃度への影響が大きい。まあ当たり前の事ですが。
さまざまなものがありますが、主な物は以下の7種ではないかということです。
- ホルムアルデヒド
- 溶剤(キシレン、トルエンなど)
- 可塑剤(フタル酸エステル,有機リン系薬剤)
- 防虫剤、防蟻剤、(有機リン系薬剤、ピレスロイド系薬剤、その他)
- 防腐剤、防カビ剤
- 難燃剤、(有機リン系薬剤、ハロゲン系薬剤、その他)
- 樹脂モノマー
◇化学物質が含まれていない建材とは
建材によっては「健康建材」と銘打っているものもありますが、多少化学物質の含有量は少ないものの前述のとおり各物質との因果関係が明確ではない以上それほどの期待はできないのではと思います。しかし一般的な建材よりは良い事は確かです。ただ値段が高いのが難点です。また、以下に記載した建材でも化学物質がまったく含まれていないという事ではなく、他の物より少ないというようにお考えください。
- 木質系ボード
- 合板などではハードボード、インシュレーションボードを除きほとんどに、ホルムアルデヒドが含まれる。
- 集成材
- 健康建材の一部を除き、ほとんどにホルムアルデヒドが含まれる。
- 壁紙
- 紙、織物壁紙には含まれていない。ビニールクロスにはすべてにホルムアルデヒド、有機溶剤が含まれている。
- 左官材
- ほとんどの材料に化学物質は含まれていない。
- クッションフロア、カーペット
- ほとんどの建材に有害な化学物質は含まれていないと考えられる。
- 断熱材
- グラスウール以外はほぼ安全といえる。
- 無機質系ボード
- 石膏ボードには大きな化学物質は含まれていない。
◇室内化学物質汚染の改善方法
- ベイクアウト
- 室内の温度を上げて一定時間保ち、その後換気することで建材に含まれている化学物資を強制的に排出しようとする方法。ただしこれは少しでも汚染を少なくする為の方法のひとつと考える。効果はあるが、これに頼る事は危険です。
- 空気清浄器
- いくつかのホルムアルデヒド対処法のものが発売されていますが、全く効果のないものもありますので、注意が必要です。
- 表面処理による方法
- いまのところ表面処理によってホルムアルデヒドの放散量が低減できると考えられているのは3つあります。
- A.ホルマリンキャッチャー剤 B.セラックニス C.特殊塗料
- 吸着材
- 木炭、活性炭などを利用することですが、材料の種類によってその能力には大きな差があります。効果を出すためのポイントはなるべく汚染物質放出源の近くに、できるだけ吸着能力の高いものをできるだけ多く使うことです。また、密閉された空間の方がより効果的です。
一般に木炭より活性炭の方が吸着力は高いようです。
- 換気
- まずおこなうべきは換気です。生活に支障のない範囲で、できる限りの換気をするべきです。そして換気扇を適切な位置に設置することも大切です。
- 調湿材
- 高い湿度のときに湿気を取り、乾燥のときに湿気を放出するような材料のことで、それによって健康への悪影響を防ぐことを目的とするものです。いまのところ評価は定まっていませんが、左官材としての珪藻土(ケイソウド)や壁紙としての和紙が主なものとしてあります。
- 床下調湿材
- 評価はまったく確立されていないが湿気の吸着速度よりも吸着量の大きい材量が望ましいといえます。木炭はその原料や製造法によって性質がかなり異なるので注意が必要です。
※まとめ
さまざまな情報を集め、できるだけ安全性の高い材量を使用することと、できるだけ実績の多い自然素材を使うようにすることがポイントです。
- 生石灰クリーム
- 内装、外装の仕上げに使用できて、安価な自然素材。地中海沿岸の住宅や、日本でも灯台の外壁仕上げなどに使用されている。着色する事もできるし、テクスチュアをつける事もできる。但し水を吸うため、外装に使用するときは定期的な塗り替えが必要。
- 板材
- 輸入材では床材としてはナラ、階段材としてレッドオーク、壁材天井材としてホワイトウッドなどがあります。国産材では床には信州カラマツ、信州アカマツ、壁には木頭スギ、智頭スギなどがある。但し完全に乾燥していないと狂いや、そりが出る。完全に乾燥している物でも湿気を吸ったりはいたりする為に、どうしても隙間ができる。ですから、木の香りや、色の変化を楽しんで細かな事には目をぶるような感性が必要です。
- 構造材
- 基礎は十分な換気孔を設け、土台はベイヒバ、柱は芯持ち材を使用し、桁や梁にはベイマツ、スギなどを使用すると構造的にも丈夫な物になります。
- 和紙
- 市場の95%は機械漉きです。しかし機械漉きの和紙でも化学物質の使用量は微量ですから、他のクロスなどよりは安全性が高いといえます。ただし施工方法は少し面倒な部分も有りますので材料費とあわせると結構高価な物になります。
- 畳
- 現在使用されている畳の60%は化学畳ですが、化学畳は安全性から考えるとあまりいい物ではありません。畳表は当然ですが、畳床についても最低限自然素材を使用したものを使用すべきでしょう。
◇空気清浄機について
ハウスダストよりも小さな化学物質のようなガス体は、
- オゾンによる酸化によって化学分解する。
- 金属酸化物による触媒効果で化学分解する方法。
- 光触媒効果で酸化し分解する方法
の3種類があります。注意すべきなのはどの方法を使用するにしても、その部屋の大きさに見合った器具を使用する事です。能力の小さな物を使用すると改善されないばかりか、無駄に室内の空気を攪拌する為よけいにハウスダストが多くなる事もあります。
記載にあたりましては、当社の経験と「建築知識」98/9号を参考にしました。